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悪人 [映画 *あ]


悪人(サントラ)
「悪人」、観ました。

殺人を犯してしまった男と、彼を愛し共に逃避行をする女を軸にして事件に関わった人々が味わう苦悩を描いた人間ドラマ。

先月カナダで開催されたモントリオール世界映画祭で、深津ちゃんが女優賞を受賞したことで話題となっていたのも記憶に新しいところ。
その時のインタビューで、映画に関わったすべての人の力があったからこそ受賞できた・・・という風な意味合いのことを話していたかと思います。
映画を観て、本当にその通りだと感じました。
深津さんの演技も素晴しかったと思うし、主演の妻夫木君、若手からベテランに至るすべての出演者の見事な演技に圧倒されました。
そんなキャストの熱演に加え、真に迫る作品世界を作り上げた監督はじめスタッフの努力の賜物が、あの受賞に繋がったのかな、と思える作品でした。

出会い系サイトで知り合った女性・佳乃を殺めてしまった祐一。
彼は長崎の海辺の町に住む若者。
叔父が営む解体業を手伝い、仕事が終われば親代わりの祖父母が住む家に帰る。
同じ事の繰り返しの毎日に、変化を与えるのが出会い系であり、そこで知り合った佳乃との関係だった。
しかし、祐一は不運な成り行きに抗うことができずに佳乃の命を奪ってしまう。
そんな時、祐一の携帯に1通のメールが届く。
佐賀に住む女性からで、祐一は彼女と会う約束をするのだった。

この佐賀の女性が深津ちゃん演じる光代。
彼女も変化のない毎日が積もりに積もり、自分のこれからに言いようの無い不安を抱えていた。
生真面目で純粋な光代が、祐一との出会いによって自分の人生を投げ打つような逃避行に身を置くことになっていくのです。
“出会い系で知り合った男の子だけど、これから本気でお付き合いできるのかな”、そんな風に考えていた彼女が彼から罪の告白をされる、それも殺人を犯したなんて聞かされたら普通は一緒に逃げようとはならないはず。
そこから2人の逃避行となっていく所に説得力を持たせるのって、結構大変なんじゃないかな。
けれども深津ちゃんと妻夫木君は、迫真の演技でそのハードルを越えていたと思う。
祐一と光代の中の孤独感が共鳴して、互いの存在が拠り所となっていく様を、静かにしかし熱く演じていました。
あの激しいベッドシーンも必要不可欠、の大事なシーンと言えます。

被害者である佳乃の父親を演じた柄本明の、もって行き場の無い憤怒が噴出しそうになる場面では、観ているこちらの胸もかきむしられる様でした。
振り上げたこぶしをぐっと堪えた父親の遣る瀬無さ、彼の心からの叫びに、号泣。
もしかしたら今、この劇場内で一番泣いてるの私じゃない?ってくらいだったんだよぅ^^;

祐一の祖母役の樹木希林も、流石の演技。
もう、台詞が無くても彼女の困惑とか、絶望とか、手に取るように分かる。
台詞が無い方が、ずっとずっと分かるんです。
役者さんの表現力の凄さを思い知らされました。

逃避行の末に2人が得たものとは何だったのか。
真っ当な光代と出会ったことで、罪の重さを知った祐一。
光代という大切な存在を得たことで、佳乃もまた誰かのかけがえの無い存在だったと思い知らされるのです。
最後に祐一がとった行動は、自分の為に未来を費やしてしまいそうな光代を自由にしてあげたい、と思ったからなのか。
また、光代が犯人を匿って一緒に逃げた共犯者になってしまわない様に、連れ回された被害者にした方が良いと思ったのか。
祐一の光代に対する愛情なんでしょうね、きっと。

それに対して、やっぱり祐一への思いを断ち切れないラストシーンの光代が切なかった。
光代が花を手向けに行った殺害現場のガードレールに、祐一の祖母のスカーフが巻き付けられていたのも、また切ない。
あの場に訪れた祖母はきっと、手を合わせながらずっと頭を下げて居たんだと思う。
そんな風に、多くを語らずとも情景が目に浮かんでくる演出も、心を揺さぶったのです。

悪人  (2010)
 監督 李相日
 妻夫木聡 深津絵里 岡田将生 満島ひかり 塩見省三
 池内万作 光石研 余貴美子 井川比佐志 松尾スズキ
 山田キヌヲ  韓英恵 中村絢香 永山絢斗 宮崎美子
 樹木希林 柄本明
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